モノ・コトを作る人の「暮らし」をインタビュー。
熟練した職人の技術により生み出される、美しくなめらかな帽子をデザインする帽子作家、
『wicagrocery(ウィカグロサリー)』の折原 陽子さんと、
「気持ちよく自分らしく着ることのできる、私が着たいと思う服」をテーマに天然素材にこだわった衣をつくる洋服作家、『détente(デタント)』のshuanさん。
全国で販売会やイベントに引っ張りだこのこのお二人が、今回熊本で一緒に販売会をされるということで会いに行ってきました!
会場にずらりと並ぶ帽子と洋服たち。
こだわり抜いたシルエットや素材感、ディテールからは、丁寧な手仕事を感じることができます。
『détente』の洋服に身を包み、『wicagrocery』の帽子を被り、シンプルでありながらも際立つ存在感を放つ折原さん(写真左)とshuanさん(写真右)。
写真を撮ろうとすると、パッと下を向いたり恥ずかしそうにされるのでシャイな方たちなのかな…と思いきや、インタビューが始まると一変。
実はとってもフレンドリーで、とっても楽しい方たち!
それぞれの「ものづくり」に対する想いやこれからのこと、たっぷりとお話してくださいました。
— お二人が「ものづくり」の道に進むことになったきっかけを教えてください。
折原さん:どこにもないものを自分でセレクトして自分の店で販売するっていうことをやりたくて、バイヤー育成の学部を卒業後『yuzuri(ユズリ)』というギャラリー兼セレクトショップを作りました。
埼玉県春日部市は昔から地元産業として、帽子づくりや桐箪笥作りなどの工芸品が有名なのですが、たまたまショップの近くに「田中帽子店」という明治からずっと帽子を作り続けている老舗の工房があり、ご縁があってそこの麦わら帽子をデザインさせてもらうことになったのがきっかけです。
その後『wicagrocery(ウィカグロサリー)』として作らせてもらうようになり、4年目くらいになります。
今はイベント出店などで全国を回っているので、『yuzuri』の店舗はお休みしています。
shuanさん:服を縫い始めたのは15年前、自分の子供に着せたい服が当時なかなか売っていなかったこともあり、子供の服や自分の服を作るようになったのがきっかけです。
もともとは建築科を出てインテリアコーディネーターとして設計事務所で働いていたのですが、父が病気で倒れたことをきっかけに家業の製造業を手伝っていた時期もありました。
機械を動かして鉄を削ったり重いものを持ったりと、それはもう結構な力仕事で…(笑)
当時は大変なこともたくさんありましたが、その時の経験が今の私の精神力と体力を作り上げてくれました。
今は『détente(デタント)』として自分で作った服を持って、全国各地の販売会やイベントを回らせていただいています。
— 折原さんにお伺いします。帽子づくりの魅力はどんなところですか?
折原さん:まず、自分にはできない職人さんの手仕事。
ドイツ製の古いミシンで帽子を繋げていく作業が、まさに職人技なんです!
熟練の技術でひとつずつ丁寧に正確に作られ、型崩れの少ない丈夫な麦わら帽子が完成します。
被っているうちに壊れたとしても捨てるのではなく、修理して繋ぎ合わせてまた使うという、ひとつの道具を大切にする“日本らしさ”みたいなところにもすごく魅力を感じて…
気付けばどんどんハマっていました。
あとは、「田中帽子店」会長の職人魂というのかな、それが大好きで(笑)
帽子への愛がとにかく強くて、私がどんなに難しいデザインを注文してもいつもそれを超えたものを作ろうとしてくださいます。
会長なので現場に出なくてもいい方なんでしょうけど、『wicagrocery』の帽子はそんな会長が自ら作ってくださる、かなりレアな帽子なんです。
—『wicagrocery』の帽子づくりは、会長さんとの二人三脚なんですね。
折原さんの帽子づくりに対する想いを教えてください。
折原さん:「流行り」は移ろっていくものじゃないですか。
そういうものではなく、昔から今も愛され続けているものってすごくいいなと思います。
飽きの来ないシンプルなデザインだったりとか、作りの良さだったりとか、結局そういうところに行きつくと思うんですよね。
私の帽子づくりのテーマとしては、「10年先も被っていたい帽子」かな。
あとは、本当に必要なものって実はすごく少ないと思っていて、大事にずっと使えるものがいくつかあればいいのかなと思っています。
どちらかというと、そんな生き方みたいなものを帽子づくりに投影させたいのかもしれません。
— shuanさんにお伺いします。洋服を作る中でどういったことにこだわっていますか?
shuanさん:こだわっているのは、「自分が着たい納得のいく洋服づくり」というところです。
誰かに届けたいと思えるような服じゃないと、たとえ何時間かけて作り上げたものでも引き上げちゃいますね。世に出せない!
生地にしても、届いたものが自分の想いと違うものだったら使わないです。
実はそういう生地たちがたくさん眠っていて、自宅2階の扉が開かなくなってきてます(笑)
— 妥協は許さないんですね…!今後その眠っている生地たちの出番はあるんですか?
shuanさん:デザインしていて、「あ!この形にはあの生地が合うんじゃないかな?」って、突然使いたくなったりする時もあります。
眠っているたくさんの生地たちは、その時を待ちながら今も眠り続けてます…(笑)
— それぞれのブランド名に込められた想いは?
shuanさん:『détente(デタント)』はフランス語で、癒しとか回復とかそういった意味があるんです。
『détente』の服を着ることによって癒されたり、元気が湧いてきたり。
そんなふうになって欲しいなと思って名付けました。
折原さん:『wicagrocery(ウィカグロサリー)』には実は深い意味がありまして…
「wica」というのは古期英語のアングロ・サクソン語なのですが、英語でいうと「witch」=「魔女」という意味があります。
魔女って現代では悪役のイメージが強いけれど、古代では修道院で薬草を育て、人々のために薬を作っていたと言われているんです。
また先見の明もあって、時代を変えていくような大きな力を持っている人たちだったとも言われています。
私にはそんなに大きなことはできないかもしれないけれど、私が作ったものを身に纏うことで誰かが元気になったり癒されたり、少しでもパワーを持ち帰ってもらえるような、そんな場所を作りたいなという想いがずっとありました。
古代の魔女が人々にそうしてきたように、誰かに手を差し伸べてあげれるような存在でありたい。
『wicagrocery』にはそんな想いを込めています。
— お二人ともイベントや出店などで日本全国回られるそうですが、大変じゃないですか?
折原さん:そうですね~、もちろん大変なこともありますがすごく楽しいです!
全国いろんな場所に呼んでいただいて、メンバーはだいたい私とshuanちゃんとパン屋さん、あとはその時その時で変わるんですけど、私たち歩く商店街みたいだねって言われてて(笑)
みんなそれぞれの分野のプロできちんと責任を持ってやっている方たちだから、仲良しだけどすごく尊敬し合っています。
考え方や価値観が同じで高め合える仲間たちがいつも周りに居てくれて、こんなに幸せでいいのかなって思うくらい!
shuanさん:そうだね!
それに自分の足で全国を回らず、作って卸をするという選択肢もあると思うけど、やっぱり直接行って自分で届けたいよねー。
目の前で帽子を被ってもらって、服を着てもらって「似合うね!」とかそういう感動をお客さんと一緒に味わいたい!
折原さん:そうそう、そういうのが本当に楽しくって。
それに作り手の顔が見えるっていうのは、本来それが商売としても自然な形だと思うんです。
私自身は作り手ではないけれど、作り手の職人の想いを運んで届ける役目なのかなと思っています。
— すごく楽しそうなのが伝わってきます!パワフルに活動していらっしゃるお二人ですが、毎日を心地よく過ごすために大切にされていることなどはありますか?
折原さん:私は週に三回バドミントンをしています。
単純にバドミントンが好きっていうのもあるし、自分自身のバランスを崩さないためにやっている部分もあって、私にとっては大切なことのひとつです。
体を動かして汗を流すことで頭の中を一回リセットできるし、結構本気でやっているのでメンタルも強くなりましたよ(笑)
あとは、何事も無理をしないことが大切だと思っています。
shuanさん:私は自分が「嫌だな」と感じることは、すぐに解決するようにしています。
重い気持ちを引きずったままで一日を過ごすのは勿体ないし、もしそのままにしてその後に何かあった時は、すごく後悔すると思うので…
何事もうやむやにせずその時に解決するようにして、すっきりと晴れた気持ちで毎日を過ごせるよう心がけています。
— やはり気持ちの切り替えが大切ということですね。
お二人にとって心地よい場所やお気に入りのものなどはありますか?
折原さん:以前からアンティークのインテリアが好きなんですけど、値段的にも結構思い切って買ったようなものが多くて…
壊れても修理をしながら、愛着を持って今もずっと大切に使っています。
昔はファッションがすごく好きで流行りを追いかけているような時期もありましたが、そうやって色んなものを見てきたからこそ、“本当に自分が好きなもの”が分かったし、流行りを追うのは自分には合っていないなというのも分かったんです。
色々経験して、だんだんとそこに行きついたって感じでしょうね。
手間暇かけて愛情を込めて作ったものに魅力を感じるようになり、自分もそういう流れの中にいるのが心地よいと思うようになりました。
shuanさん:私のお気に入りは、リビングにある自分専用のレザーのソファです。
高いブランドのものとかでもないし、特にこだわって買った訳でもないですが、すごく座り心地がよくて。
気に入りすぎて、いつも2シーターを独り占めしてます (笑)
もうひとつお気に入りの理由は、そのソファから部屋全体を見渡せるところ。
息子の部屋も見えるかな~見えないかな~くらいなんですけど、家族の存在を感じることができて安心できる場所です。
— 最後に、それぞれの今後の未来図を教えてください!
shuanさん:本当に今が一番楽しいんですよね。
自分がやりたいと思ってやっていることなので、それをずっと続けていけるってこの上なく幸せなことだと思っています。
これからも変わらず、今みたいに楽しく過ごせたらいいなと思いますね。
そのためにももっと体力作りを頑張らなきゃ…(笑)
折原さん:私の周りにいるいろんな分野のプロたちと一緒に、何かひとつのことをカタチにできたらいいなと思っています。
考えているのは、カフェ、ショップ、ヨガやセラピーハウスのような心や体をメンテナンスできるお店などを集めた、「衣食住」をトータルで提案できるような癒しの場です。
今はこうして「旅する帽子屋さん」のような感じで全国を回らせていただいていますが、いずれ自分が戻る場所はやっぱり『yuzuri』だと思っています。
そこを拠点としてもっと町が活性化するような、そんな場所を作ることが今後の目標です。
お二人からは眩しくてクラクラするほどパワーがあふれていて、このパワーは一体どこから…?!と考えましたが、きっと今の暮らしを心から楽しんでいらっしゃるからこそなのだろうなと。
好きなことにまっすぐに、自分らしく暮らすことの大切さを改めて感じることができた今回の取材。
誰かを元気にしたい
誰かを癒したい
そんな誰かを想って作られた『wicagrocery』の帽子と『détente』の洋服は、
今日もきっと誰かの心に届いていることでしょう。
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