暮らしに溶け込むやさしいうつわ|陶丘工房

モノコト | 2020 02.28

モノ・コトを作る人の「暮らし」をインタビュー。

 

 

今回訪れたのは、天草の小高い丘の上にある『陶丘工房』。

 

 

自然豊かな工房の周りは竹などの緑にぐるりと囲まれていて、雰囲気のある佇まい。

 

海からの風が心地いいその場所からは、天草の海や田園風景を一望できます。

 

テラスでくつろいだり、店内や近所を自由気ままに行き来している人懐っこい猫たちもかわいくて癒されます。

 

 

 

 

出迎えてくれたのは、窯主の末石 昌士さんと奥さま。

笑顔の優しいご夫婦です。

 

 

 

 

店内にはうつわをはじめ、カッブや花瓶など様々な形をしたあたたかみのある焼き物がずらりと並びます。

 

シンプルだけど素朴な可愛さのあるうつわたちは、見た目だけでなく、

うつわの深さや口の広さ、持ち手の大きさやバランスまでしっかりと計算されていて、使いやすさへのこだわりを感じます。

 

お話を伺う前、雰囲気を見せていただくためちょっと店内を一周していたのですが・・・気づけば真剣にうつわ選びしてました。

やっぱり見ていると欲しくなりますね(笑)

 

そんな魅力的なたくさんのうつわたちに囲まれながら、『陶丘工房』窯主の末石 昌士さんに自身の想いや暮らしのことについて、お話を伺いました。

 

 

 

 

—  1999年に『陶丘工房』を開かれたそうですが、陶芸作家の道に進もうと思ったのはどういったことがきっかけになったのですか?

 

末石さん:昔から絵とかそういうものを見るのは好きで、子供の頃から百科事典の最後の方のページについていた美術関係の付録などはよく見ていました。

 

陶芸作家の道に進むきっかけになったのは、以前、人造大理石を作る仕事をしていた時に知り合った彫刻家の方との出会い。その方を通してこういう世界があることを知ったんです。

美術に触れながら暮らしたいという想いがずっとあったので、この世界でやっていこうと決めました。

 

 

 

 

— 技術はどのようにして習得したのですか?

 

末石さん:最初は工業技術センターの「窯業科」という、県内で窯業をする人材を育てるための施設で学ぼうと考えたのですが、その頃生徒の人数が増えていたのか新規は受け入れてもらえなくて・・・

それでたまたまそこの先生からの紹介で、160年の歴史を持つ「丸尾焼」に弟子入りすることになりました。

そこで十数年間修行したのちに独立しました。

 

 

 

 

— どんな思いを込めて制作されていますか?

 

末石さん:私は「陶芸作家」というよりも「うつわ屋」というスタンスで作っています。

というのも、あまり作家性が強いと形なども限られてくるし、作るものが狭められると思うんです。

 

そういうものよりは、みなさんに気軽に手に取ってもらえるようなものを作りたい。

あまり派手じゃないけどしっかり使えて、使ったら「あ、意外といいな」と思ってもらえるような、日常の暮らしに溶け込むうつわであればいいなと思っています。

 

 

 

 

— この場所に工房を作られたのはなぜですか?

 

末石さん:自分がイメージするものがあって、それに合う土地を探していたのですがなかなかぴったりの場所が見つからず、3年くらいかけてここを見つけました。

 

一番こだわったのは海が見える場所。

 

それとあまりに静かすぎるのはちょっと苦手なので、多少車通りがあり社会の動きが見える場所がよかったんです。

私の好きなバイクが通ってるのも見えますしね(笑)

 

 

 

 

— じゃあここは想い描いていた理想にぴったりの場所だったんですね。お休みの日はどんなふうに過ごされていますか?

 

末石さん:今お店の定休日を決めていないので、休みという休みはあまりないのですが、自分で淹れたコーヒーを持ってバイクで朝日や夕日を見に行くことが息抜きになっています。

忙しい時は缶コーヒーですが(笑)、朝日や夕日を見ながら飲むコーヒーは格別!

かなりリフレッシュできます。

 

最近では、毎週ちゃんと休みを取ってうつわ作りとは全く違うことをする時間も大事だなと感じていて、そろそろ定休日を決めようかなと思っているところです。

 

 

 

 

— きれいな朝日や夕日をみながら淹れたてのコーヒーを味わう・・・贅沢な時間ですね!毎日を楽しく過ごすために心掛けていることはありますか?

 

末石さん:ひとつの物事には両極があると言われていて、いい事でもあるし悪い事でもあるということなのですが、私は物事のいい方を見るように心掛けています。

 

例えば自分が怪我をする事故に遭ったとして、その事実をただ「最悪!ついてない!」と思えば悪い事になるし、

「小さな事故で気づけてよかった!大きな事故に遭わないための教訓だ」と思えば、これはいい事になる訳です。

 

ひとつひとつの物事をいい方に見るか悪い方に見るか、毎日を楽しく過ごせるかどうかは自分次第で変わると思います。

 

 

 

 

— 確かにそうですね。物事のいい面を捉えることができたらすごくラクというか、もっと幸せな生き方ができる気がします。

 

末石さん:人の一生の長さってだいたい決まってるじゃないですか。その中で「どう生きるか」ということが大事だと思っているので、悪い事にいちいち反応していたら勿体ないなと思います。

 

時代もどんどん変わってきていて、自分自身が快適であることや、自分自身が心地よいと思えるモノやコトを大事にしていくことが今後もっと重要になってくると思うし、それが受け入れられる世の中になってきているのかなと。

 

心地よさを作るという点では建築とかもまさにそうだと思いますし、私たちの場合はうつわを通して心地よさを作り出す作業をしているのかなと思います。

 

 

 

 

— 夢を実現するために大切なことは何だと思いますか?

 

末石さん:大きい目標でも、まずその目の前にある小さいことの積み重ねが大事だと思っています。

 

小さくてもいい、失敗してもいいからとりあえずチャレンジする。

10のうち8失敗しても、2が手に入ると思えば失敗なんて怖くない。

 

そんなふうに考えて前に進んでいけば、だんだんとその大きな目標にも近づけるはずだし、それぞれが望んでいる「暮らし方」が実現できると思っています。

 

 

 

 

— 最後に末石さんの「これから」を教えてください!

 

末石さん:今後はお店をもう少し広くして、もっと体験教室の場所を充実させたいと考えています。

 

体験を通して焼き物やものづくりの良さみたいなものを、一人でも多くの方に知っていただけたら嬉しいです。

 

自分のやっていること、これからやろうとしていることが、天草の発展に繋がることのひとつになればいいなと思います。

 

 

 

 

自分の「心地よい」と思える感覚を大切に、日々ものづくりと真摯に向き合う末石さん。

 

時には他の人が作るうつわを買うこともあるそうですが、その理由は、自らが選んで買うという行為を通して、買う側の視点を自分なりに理解し大事にしたいからなのだそう。

 

そんな人々の気持ちや暮らしに寄り添う心と限りない探究心から生まれる、やさしくてあたたかいうつわたちは、見る人の心を揺さぶります。

 

 

200年以上に渡る天草陶磁器の歴史の中で古くから人々がそうしてきたように、多様性が常に新しい時代を築くことを信じて。

 

末石さんの挑戦はまだまだ続きます。

 

 


陶丘工房

 

[ 住所 ] 熊本県天草市五和町御領7005-1

[ Tel ] 0969-32-2502

[ 営業時間 ] 10:00~17:00

[ 定休日 ] 不定休

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